耳鼻咽喉科で軽度の突発性難聴と診断され、
「軽度ならすぐに治るのではないか」
「聞こえないわけではないので、様子を見ても大丈夫だろうか」
と考えている方もいると思います。
一方、薬を飲み始めて1週間ほど経っても聞こえ方が変わらず、「軽度なのに、このまま残ってしまうのではないか」と不安になっている方もいるのではないでしょうか。
突発性難聴は、一般的に難聴の程度が軽いほど聴力が回復しやすい傾向があります。
しかし、軽度であれば必ず治るわけではありません。
発症直後に軽度だった場合と、治療を始めて1週間経っても軽度のまま変わらない場合では、その後の経過の見方が異なります。
最初の重症度だけでなく、治療開始後に聴力がどのように変化しているかを確認することが重要です。
この記事では、軽度の突発性難聴とはどの程度なのか、どのような症状がみられるのか、どのくらいで治る可能性があるのかについて、研究データと当院での臨床経験を区別しながら解説します。
1.突発性難聴の軽度とは
突発性難聴の重症度は、聴力検査で測定した聞こえの程度によって分類されます。
日本で用いられている重症度分類では、次の5つの周波数の平均聴力レベルをもとに、Grade 1からGrade 4までの4段階に分けられます。
- 250Hz
- 500Hz
- 1000Hz
- 2000Hz
- 4000Hz
|
重症度 |
5周波数の平均聴力レベル |
|
Grade 1 |
40dB未満 |
|
Grade 2 |
40dB以上60dB未満 |
|
Grade 3 |
60dB以上90dB未満 |
|
Grade 4 |
90dB以上 |
このうち、Grade 1が最も軽い段階です。
この記事では、主にGrade 1を「軽度」として説明します。
ただし、診察時に使われる「軽度」という言葉が、必ずしもこの重症度分類のGrade 1を指しているとは限りません。
自分の聴力がどの程度なのかを正確に知るには、聴力検査の結果を確認する必要があります。
また、Grade 1だからといって、ほとんど症状がないとは限りません。
片耳だけに難聴が起きている場合、反対側の耳で聞こえを補えるため、次のような状態でも聴力検査をすると片耳の低下が確認されることがあります。
- 普通に会話はできる
- テレビの音も聞こえる
- 耳が少し詰まっている
- 左右で聞こえ方が違う
突発性難聴では、すべての音が同じように聞こえにくくなるとは限りません。
特定の周波数だけ聴力が低下している場合には、本人が難聴に気づきにくいこともあります。
ここで知っておきたいのは、軽度という診断は、検査を受けた時点の聴力を表しているということです。
発症直後の検査でGrade 1だったからといって、必ずそのまま改善するとは限りません。
軽度のまま聴力が十分に戻らない場合もあるため、その後の聴力検査で変化を確認することが大切です。
2.軽度の突発性難聴でみられる症状
軽度の突発性難聴では、全く聞こえないというよりも、「少し聞こえにくい」「左右で聞こえ方が違う」と感じることがあります。
聞こえにくさよりも、次のような症状が気になる場合もあります。
- 耳が詰まった感じがする
- 耳鳴りがする
- 音が響いて聞こえる
- 音がこもって聞こえる
- 音程がいつもと違って聞こえる
片耳だけの場合は反対側の耳で聞こえを補えるため、日常の会話にほとんど困らないこともあります。
そのため、「耳が詰まっているだけ」「少し聞こえ方が違うだけ」と考え、受診が遅れてしまうことがあります。
しかし、症状の強さだけで聴力低下の程度を正確に判断することはできません。
突然聞こえ方に変化が現れた場合は、症状が軽くても早めに耳鼻咽喉科を受診し、聴力検査を受けることが大切です。
3.軽度の突発性難聴の完全回復率
軽度の突発性難聴は、重度の場合と比べると聴力が完全に回復しやすい傾向があります。
日本で突発性難聴310例を調査した研究では、重症度別の治癒率が次のように報告されています。
|
重症度 |
治癒率 |
|
Grade 1 |
67% |
|
Grade 2 |
37% |
|
Grade 3 |
32% |
|
Grade 4 |
4% |
この結果では、最も軽いGrade 1の治癒率が67%であり、ほかの重症度より高くなっています。
一方で、別の見方をすると、Grade 1でも約3人に1人は研究上の治癒判定に至っていないことになります。
ただし、これは310例を重症度別に分けた集団の結果です。
年齢、治療開始までの日数、めまいの有無、聴力の低下している周波数などによって経過は異なるため、個人の結果をそのまま予測できる数字ではありません。
また、ここでいう治癒は、定められた聴力検査の基準によって判定されたものです。
患者さんが考える「完治」には、聴力だけでなく、耳鳴りや耳の詰まり、音の響きなどがなくなることも含まれると思います。
聴力が回復しても耳鳴りなどの症状が残る場合があるため、研究上の治癒と自覚症状がすべて消失することは分けて考える必要があります。
4.軽度でも発症後の経過が重要
軽度の突発性難聴では、発症時の聴力だけでなく、その後どのように変化しているかを見ることが重要です。
同じ軽度でも、発症直後に検査を受けた場合と、治療開始から1週間経ってもほとんど変わらない場合では意味が異なります。
4-1.順調に改善している場合
治療を開始してから聞こえが良くなり、聴力検査でも改善が確認できている場合は、良好な経過をたどっていると考えられます。
耳鳴りや耳の詰まりが残っていても、聴力が回復していることがあります。
自覚症状だけで判断せず、聴力検査の結果と合わせて経過を確認することが大切です。
症状が軽くなったからといって自己判断で治療を中断せず、耳鼻咽喉科の指示に従って治療や検査を続けてください。
4-2.1週間経っても変わらない場合
発症時に軽度で、治療開始から1週間経っても聴力がほとんど変わらない場合、悪化していないことだけで順調とは判断できません。
軽度のままということは、その間に聴力が十分に改善していないということでもあります。
すでに耳鼻咽喉科で治療を受けている場合は、聴力を再検査してもらい、現在の治療を継続するのか、ほかに検討できる治療があるのかを担当医に確認することが大切です。
4-3.聴力が低下する場合
発症後に聴力がさらに低下するケースもあります。
当院では、発症時は軽度と診断されたものの、5日後に聴力が急激に低下して重度となり、病院で治療を受けても聴力が完全には戻らなかった方がいました。
これは当院が経験した個別の事例であり、軽度の方が同じような経過をたどるとは限りません。
ただし、最初に軽度と診断されたことだけで、その後の聴力まで判断することはできません。
聞こえ方が悪くなった場合は次の診察を待たず、早めに耳鼻咽喉科へ相談してください。
5.軽度の突発性難聴が治るまでの期間
軽度の突発性難聴が何日で治るかは、すべての方に共通するものではありません。
数日から1~2週間で大きく改善する方もいれば、改善に時間がかかる方や、聴力が完全には戻らない方もいます。
そのため、「何日経ったか」だけではなく、治療を開始してから実際に聴力が改善しているかを確認することが重要です。
5-1.治療開始から約1週間の変化
突発性難聴332例を対象とした研究では、治療開始6~7日後の聴力改善度が、完全回復を予測する重要な因子の1つだったと報告されています。
この研究では、次の3つの不良予後因子がない方のうち、治療開始6~7日後に聴力が10dB以上改善していた方の完全回復率は80%でした。
- 60歳以上
- 初診時の聴力が72.5dB以上
- めまいがある
一方、これらの不良予後因子のうち2つ以上があり、治療開始6~7日後の改善が10dB未満だった方では、完全回復率が1.5%でした。
ただし、この数字は軽度の突発性難聴だけを対象にしたものではありません。
特に1.5%という数字は、複数の不良予後因子を持つ方の結果であり、軽度と診断された方にそのまま当てはめることはできません。
この研究から分かるのは、最初の聴力だけでなく、治療開始から約1週間後にどの程度改善しているかが、その後の経過を考える手がかりになるということです。
5-2.治療開始から1~2週間の変化
別の研究では、治療開始から1~2週間で聴力改善率が50%を超えた方は、その後も良好な改善を示す傾向が報告されています。
一方、1~2週間で改善率が50%に達しなかった方は、3ヶ月後の改善も小さい傾向がみられました。
また、289例を対象とした研究でも、聴力が改善した方の多くは、治療開始後の早い時期から変化がみられたと報告されています。
これらは軽度例だけを対象にした研究ではないため、1週間や2週間で改善しなければ、その後は治らないという意味ではありません。
治療開始から2週間を過ぎて改善する方もいます。
ただし、早い段階の聴力変化は今後の経過を考える材料になります。
自覚的な聞こえ方だけでなく、聴力検査でどこまで改善しているかを確認することが大切です。
6.軽度でも改善しない場合の対応
6-1.まだ耳鼻咽喉科を受診していない場合
突然の耳鳴りや耳の詰まり、聞こえ方の変化があるにもかかわらず、まだ聴力検査を受けていない場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科を受診してください。
軽い症状だけでは、突発性難聴なのか、ほかの病気によるものなのかを判断できません。
6-2.病院で治療を受けている場合
すでにステロイドの内服や点滴などを受けている場合は、自己判断で治療を中断せず、担当医の指示に従ってください。
聴力が改善していない場合は、再度聴力検査を受け、現在の状態と今後の治療方針を確認します。
突発性難聴では、発症からの期間や状態によって、鼓室内ステロイド療法や高気圧酸素療法などが検討されることがあります。
適応や実施時期は患者さんによって異なるため、耳鼻咽喉科の担当医に相談することが大切です。
6-3.自然回復だけを待たない
軽度の突発性難聴の中には、治療を受けなくても聴力が改善する方がいます。
しかし、自然に改善する方がいることと、軽度だから何もせずに待ってよいことは同じではありません。
特に、発症から1週間程度経っても聞こえ方や聴力検査の結果がほとんど変わらない場合は、自己判断で受診や再検査を先延ばしにせず、耳鼻咽喉科で聴力を再評価してもらうことが大切です。
軽度という言葉だけで判断せず、発症からの期間と聴力の変化を確認しながら、その時点で可能な対応を担当医と相談してください。
7.まとめ
軽度の突発性難聴は、重度の場合と比べると聴力が完全に回復しやすい傾向があります。
しかし、軽度だから必ず治るわけではありません。
また、軽度という診断は検査を受けた時点の聴力を表すものであり、それだけでその後の経過を判断することはできません。
大切なのは、治療開始後に聴力がどのように変化しているかを確認することです。
数日から1~2週間で改善が確認できれば、良好な経過を考える材料になります。
一方、1週間経ってもほとんど変化がない場合や、聞こえ方が悪くなった場合は、耳鼻咽喉科で聴力を再検査してもらい、今後の治療方針を相談する必要があります。
まだ耳鼻咽喉科を受診していない場合は、症状が軽くても早めに受診してください。
すでに治療を受けている場合は自己判断で中断せず、担当医の指示に従いながら経過を確認していきましょう。
突発性難聴が軽度でも改善しない方へ
軽度の突発性難聴と診断され、ステロイドの内服や点滴などの治療を受けても、聞こえ方や耳鳴りが改善しないことがあります。
当院では、耳鼻咽喉科での診断や治療を優先し、病院での治療と並行しながら突発性難聴に対する鍼治療を行っています。
鍼治療による改善を保証することはできませんが、病院での治療を受けても変化がみられず、ほかにできることを探して当院へ来院される方もいます。
発症から3ヶ月以内で、軽度と言われたものの改善がみられず不安を感じている方は、当院へご相談ください。
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参考文献
1.桑島秀、阿部俊彦、佐藤尚徳、ほか.突発性難聴の予後に関する統計学的検討.Audiology Japan. 2004;47(2):87-91.
2.Shimanuki MN, Shinden S, Oishi N, et al. Early hearing improvement predicts the prognosis of idiopathic sudden sensorineural hearing loss. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2021;278(11):4251-4258.
3.Ito S, Fuse T, Yokota M, et al. Prognosis is predicted by early hearing improvement in patients with idiopathic sudden sensorineural hearing loss. Clin Otolaryngol Allied Sci. 2002;27(6):501-504.
4.Lee HS, Lee YJ, Kang BS, et al. A clinical analysis of sudden sensorineural hearing loss cases. Korean J Audiol. 2014;18(2):69-75.
運営者情報
| 会社名 | 株式会社HARI51「なかいし鍼灸院」 |
| 代表者 | 代表取締役・院長 中石真人 |
| 経歴 | 高陽東高校→明治鍼灸大学→朝日医療専門学校
トリガーポイント・ファシアリリース専門鍼灸院として、症状の改善はもちろん、自分の健康を自分の力でコントロールできる人を一人でも多く増やすことを理念に掲げ、日々施術にあたっている。 |
| 資格 | 鍼灸師・柔道整復師 |
| 創業 | 平成24年9月3日 |
| 所在地 | 広島市中区上八丁堀4-28松田ハイツ702 |
| 電話 | 050-1255-9166 |
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