突発性難聴を発症した方のなかには、発症前の強いストレスや仕事の忙しさ、睡眠不足を振り返り、「自律神経の乱れが原因だったのではないか」と考える方もいるでしょう。
しかし、突発性難聴は原因を特定できないことが多く、自律神経の乱れが直接の原因であるとは断定できません。
一方で、自律神経は血管の収縮や拡張、心拍、消化、発汗など、本人の意思では調整できない身体機能に関わっています。
ストレスや睡眠不足、身体の緊張が続くと自律神経活動にも影響するため、発症前の全身状態を考える一つの視点にはなります。
この記事では、突発性難聴と自律神経、ストレス、睡眠不足、首や肩のこりとの関係を整理し、鍼治療ではどのような身体反応が考えられるのかを解説します。
なお、片方の耳が突然聞こえにくくなった場合は、鍼灸院へ行く前に耳鼻咽喉科を受診してください。
突発性難聴では、早期に診断を受けて病院での治療を始めることが重要です。
1.突発性難聴と自律神経の関係
1-1.自律神経の乱れが直接の原因とは断定できない
突発性難聴は、明らかな原因が見つからないまま、突然、片方の耳の聞こえが悪くなる病気です。
内耳の血流障害、ウイルス感染、免疫反応、炎症など複数の病態が考えられていますが、実際の診療では原因を一つに特定できないケースが多くあります。
そのため、「自律神経が乱れたから突発性難聴になった」「自律神経失調症が突発性難聴の原因である」とは言い切れません。
自律神経失調症は、自律神経に関係すると考えられるさまざまな体調不良を表すために使われることがありますが、突発性難聴と同じ病気ではありません。
突発性難聴と診断された場合は、自律神経の問題だけで説明するのではなく、聴力検査や必要に応じた画像検査を受け、耳鼻咽喉科で他の病気との鑑別を行うことが大切です。
突発性難聴の病態については、以下の記事で詳しく解説しています。
1-2.自律神経は血管や身体の緊張にも関わる
自律神経は、主に交感神経と副交感神経から構成されています。
交感神経は、活動しているときや緊張しているときに働きやすくなります。
副交感神経は、休息や睡眠、消化などに関わります。
どちらか一方が常に優位であればよいわけではなく、そのときの状況に応じて適切に切り替わることが大切です。
自律神経は、血管の収縮や拡張にも関わっています。
強いストレスや睡眠不足が続くと、心拍、血圧、筋緊張などにも変化が生じることがあります。
ただし、このような生理的な関係があることと、自律神経の乱れが突発性難聴を直接引き起こしたと証明することは別です。
現時点では、自律神経は突発性難聴と無関係とはいえないものの、発症原因として確定しているわけでもない、と考えるのが適切です。
2.発症前のストレスや睡眠不足との関係
2-1.強いストレスや仕事の忙しさが続いていたケース
突発性難聴を発症した方が、発症前に強いストレスや過労を経験していることはあります。
ストレスを受けると、交感神経や内分泌系などを介して、心拍、血圧、睡眠、筋緊張といった身体機能に変化が起こります。
そのため、ストレスが発症に関係する可能性は研究されていますが、ストレスを突発性難聴の単独原因とすることはできません。
同じ程度のストレスを受けても発症しない人は多く、ストレスの感じ方や身体への影響にも個人差があります。
また、本人に自覚できるストレスがない状態で発症するケースもあります。
なかいし鍼灸院では、突発性難聴で来院された方に、発症直前だけでなく、発症前3ヶ月ほどの仕事や生活状況も確認しています。
当院へ来院された方についての臨床上の印象では、発症前3ヶ月ほどを振り返ると、強いストレス、仕事の忙しさ、睡眠不足のいずれかに当てはまる方が半数程度います。
ただし、これは当院へ来院された方についての臨床上の印象であり、突発性難聴の患者全体を調査した統計ではありません。
また、これらの状態があったことだけで、発症原因を判断することもできません。
2-2.睡眠不足が続いていたケース
発症前に、仕事や育児、夜勤などによって睡眠時間が短くなっていた方もいます。
睡眠不足が続くと、身体が十分に休息できないだけでなく、日中の疲労感や精神的な負担が強くなります。
自律神経活動やストレス反応に影響する可能性もあります。
睡眠と突発性難聴の関係を調べた研究では、生活上の強い出来事や睡眠の質との関連が報告されています。
ただし、観察研究から分かるのは両者に関連がある可能性であり、睡眠不足が直接発症させたとまでは証明できません。
「睡眠不足を解消すれば突発性難聴が治る」という意味でもありません。
睡眠は身体を休めるために重要ですが、耳鼻咽喉科での治療に置き換わるものではありません。
ストレスや疲労、睡眠不足については、以下の記事も参考にしてください。
3.首や肩の強いこりを訴える人もいる
3-1.いつものこりより明らかに強かったという訴え
突発性難聴で来院する方のなかには、発症前後に首や肩の強いこりを感じていた方もいます。
普段から首や肩がこりやすい方でも、「発症前はいつもより明らかに強かった」「首から肩にかけて異常に張っていた」と話すケースがあります。
これも当院の臨床で確認している状態であり、すべての突発性難聴に当てはまるものではありません。
首こりがあるから突発性難聴になるわけではなく、首こりの程度から聴力の回復を予測することもできません。
特に、「首の歪みによって血管が圧迫され、内耳の血流が低下して突発性難聴になる」という単純な因果関係は、一般的な医学情報として確立されていません。
3-2.筋緊張と血流の観点
精神的な緊張や長時間のデスクワークが続くと、首や肩の筋肉に力が入りやすくなります。
睡眠不足や疲労が重なることで、筋肉の緊張を強く感じる人もいます。
筋肉が持続的に収縮すると、その筋肉周囲の局所循環に影響することがあります。
そのため、当院では首や肩のこりを耳の直接的な原因として扱うのではなく、発症前後の身体全体の緊張や循環状態を確認する材料の一つとして考えています。
首や肩の状態だけをみて突発性難聴の原因を判断するのではなく、聴力の程度、耳鳴り、耳のつまり、めまい、発症からの期間、病院での検査結果なども併せて確認する必要があります。
4.自律神経を整えれば突発性難聴は治るのか
4-1.自律神経だけを整えれば治るとはいえない
突発性難聴は、自律神経だけを整えれば治る病気ではありません。
自律神経の状態を直接確認できる一つの検査だけで発症原因を特定したり、「自律神経が整ったから聴力も回復する」と判断したりすることはできません。
突然の難聴が生じた場合は、最初に耳鼻咽喉科を受診し、感音難聴か伝音難聴かを確認する必要があります。
米国の診療ガイドラインでは、できるだけ早く、遅くとも発症から14日以内に聴力検査を行うことが推奨されています。
また、ステロイド治療を行う場合は、発症から2週間以内の開始が選択肢として示されています。
すでに病院の治療を受けている方も、自己判断で薬を減らしたり中止したりせず、治療内容について担当医に確認してください。
病院で行われる治療については、以下の記事で詳しく解説しています。
4-2.生活面では休養と睡眠を確保する
治療中は、可能な範囲で睡眠時間と休養を確保しましょう。
発症前と同じように長時間労働や睡眠不足を続けていると、身体の疲労が抜けにくくなります。
耳を休ませるため、大音量のイヤホンや騒音環境も避けた方がよいでしょう。
ただし、仕事や家事を完全に休まなければ治らないという意味ではありません。
生活への影響や聴力の程度には個人差があるため、休職や仕事量の調整が必要かどうかは、担当医と相談して決めてください。
生活を整えることは治療を受ける身体環境を支えるものであり、それだけで聴力の回復を保証するものではありません。
5.鍼治療と自律神経の関係
5-1.鍼刺激による体性-自律神経反射
鍼で皮膚や筋肉を刺激すると、その刺激は感覚神経を介して脊髄や脳へ伝わります。
そこから自律神経系の反応につながる仕組みは、「体性-自律神経反射」と呼ばれています。
研究では、鍼刺激の部位や強さによって異なる自律神経反応が起こり得ることが示されています。
ただし、鍼をすると必ず交感神経が抑えられる、あるいは副交感神経が優位になると単純化することはできません。
刺激部位、刺激方法、身体の状態などによって反応が異なる可能性があります。
また、このような作用機序の研究は、鍼刺激が身体にどのような反応を起こすかを調べたものです。
突発性難聴に対する鍼治療の効果を直接証明したものではありません。
5-2.軸索反射による局所血流の増加
皮膚や筋肉へ鍼刺激を加えたとき、刺激を受けた感覚神経の末端から血管に作用する物質が放出され、刺激部位周辺の血管が広がることがあります。
この反応は、軸索反射による局所反応の一つとして説明されています。
鍼刺激後の局所血流については、刺激した部位やその周囲で血流の増加を報告した研究があります。
一方、2016年のシステマティックレビューでは、研究によって測定方法や鍼の刺激条件が異なり、対象となる研究数も限られていました。
そのため、鍼刺激による局所微小循環への影響については、さらに質の高い研究が必要です。
ここでいう局所血流とは、主に鍼をした皮膚や筋肉周囲の血流です。
局所血流が増加する可能性があることから、「鍼によって内耳血流が増える」「その結果として突発性難聴が治る」と結論づけることはできません。
刺激部位の血流変化と、頭蓋骨の内部にある内耳の血流変化は分けて考える必要があります。
5-3.筋緊張が和らぎ身体の緊張が抜けることもある
鍼治療後に、首や肩の筋緊張が和らいだり、身体の力が抜けたように感じたりする方もいます。
当院でも、施術後に首や肩が軽くなった、呼吸がしやすくなった、身体が温かくなったと話す方がいます。
これらは患者本人が感じる変化であり、自律神経活動の変化だけで説明できるものではありません。
筋緊張、局所循環、感覚神経への刺激など、複数の反応が関わっている可能性があります。
また、身体の緊張が和らぐことと聴力が改善することは同じではありません。
鍼治療による身体反応を、突発性難聴の治癒と直接結びつけないことが重要です。
6.当院では自律神経だけでなく血流・循環を重視する
なかいし鍼灸院は、広島市中区で突発性難聴について相談を受けている鍼灸院です。
当院では、「自律神経の乱れ」という言葉だけで、突発性難聴の原因や施術方針を決めていません。
発症からの期間や聴力検査の結果に加えて、耳鳴り、耳のつまり、めまい、発症前の生活状況、睡眠、ストレス、首や肩の筋緊張などを確認します。
鍼刺激によって生じ得る自律神経系の反応は、施術で考慮する身体反応の一つです。
そのうえで当院では、筋緊張や局所循環を含めた血流・循環へのアプローチを重視しています。
ただし、これは「血流を上げれば突発性難聴が治る」「鍼で内耳血流を増やせる」という意味ではありません。
突発性難聴の病態は一つではなく、鍼治療による聴力の回復を保証することもできません。
鍼治療を検討する場合も、発症早期は耳鼻咽喉科での診断と治療を優先します。
当院では、病院治療と並行して身体全体の状態を整えたい方や、病院での治療後も耳鳴り、耳のつまりなどが残り、別の選択肢を探している方からの相談を受けています。
治療後の聴力変化を確認するためには、本人の感覚だけで判断せず、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることも大切です。
回復中にみられる変化については、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:突発性難聴の回復過程は?いつ治る?
7.まとめ
突発性難聴は原因を特定できないことが多く、自律神経の乱れを直接の原因と断定することはできません。
ただし、ストレス、睡眠不足、仕事の忙しさ、身体の緊張は、自律神経活動や全身の循環、筋緊張と関係します。
そのため、発症前の身体や生活の状態を振り返る一つの視点にはなります。
当院では、発症前3ヶ月ほどの生活状況を確認するとともに、首や肩の筋緊張、耳鳴り、耳のつまり、めまいなども併せて評価しています。
鍼刺激では、体性-自律神経反射、刺激部位周辺の局所循環、筋緊張などへの作用が考えられます。
しかし、これらの反応から「内耳血流が増える」「突発性難聴が治る」と結論づけることはできません。
片方の耳が突然聞こえにくくなった場合は、まず耳鼻咽喉科を受診してください。
鍼治療を検討する場合も、病院での診断や治療を受けたうえで、補完的な選択肢として考えることが大切です。
突発性難聴の鍼治療について相談したい方へ
なかいし鍼灸院では、広島で突発性難聴に対する鍼治療の相談を受けています。
特に発症から3ヶ月以内で、病院治療と並行してできることを探している方や、病院での治療後も耳鳴り、耳のつまりなどが残っている方はご相談ください。
現在の症状、発症からの期間、聴力検査の結果、病院で受けている治療などを確認したうえで、当院で対応できることとできないことをご説明します。
鍼治療による改善を保証することはできません。
また、耳鼻咽喉科での診断や治療が必要な場合は、そちらを優先していただきます。
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参考文献
1.日本聴覚医学会 編.急性感音難聴診療の手引き 2018年版.金原出版,2018.
URL:https://www.kanehara-shuppan.co.jp/books/detail.html?isbn=9784307371230
2.Chandrasekhar SS, et al. Clinical Practice Guideline: Sudden Hearing Loss (Update). Otolaryngol Head Neck Surg. 2019;161(1_suppl):S1-S45.
URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31369359/
3.Ma Q. Somato-Autonomic Reflexes of Acupuncture. Med Acupunct. 2020;32(6):362-366.
運営者情報
| 会社名 | 株式会社HARI51「なかいし鍼灸院」 |
| 代表者 | 代表取締役・院長 中石真人 |
| 経歴 | 高陽東高校→明治鍼灸大学→朝日医療専門学校
トリガーポイント・ファシアリリース専門鍼灸院として、症状の改善はもちろん、自分の健康を自分の力でコントロールできる人を一人でも多く増やすことを理念に掲げ、日々施術にあたっている。 |
| 資格 | 鍼灸師・柔道整復師 |
| 創業 | 平成24年9月3日 |
| 所在地 | 広島市中区上八丁堀4-28松田ハイツ702 |
| 電話 | 050-1255-9166 |
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