突発性難聴のステロイドの効果~注意点まですべての疑問に答えます

突発性難聴のステロイドの効果~注意点まですべての疑問に答えます
  • 突発性難聴のステロイドの効果はいつから効く?
  • ステロイドの副作用や注意点は?
  • ステロイドがもし効かないときはどうしたらいい?
  • アルコールやコーヒーは飲んでもいい?

このような疑問を持っていませんか?

突発性難聴は、ある日突然発生する原因不明の急性難聴で、ほとんどが片耳にのみ発症します。

発症の原因は未だ不明な点が多いものの、主に内耳の血流不足やウイルス感染などが原因として考えられています。

発症からの経過時間が予後を大きく左右するため、速やかな対応が求められます。

突発性難聴の治療にはいくつかのアプローチがありますが、その中心として広く使われているのがステロイド治療です。

ステロイドは、抗炎症作用を持ち、内耳の浮腫を抑えることで難聴の改善を図ります。

しかし、治療の効果がどのように現れるのか、また副作用のリスクや日常生活での注意点など、慎重な管理が必要です。

この記事では、突発性難聴のステロイドの効果~注意点まですべての疑問を解説しています。

是非、参考にしてみてください。

1.なぜ突発性難聴にステロイドを投与するのか?

1.なぜ突発性難聴にステロイドを投与するのか?

突発性難聴の原因は、はっきりわかっていない部分も多いですが、一般的には内耳の循環不全、炎症、免疫系の異常が関与していると考えられています。

そのため、内耳の炎症や浮腫(むくみ)を抑え、聴覚神経の回復を助けるためにステロイドを使用します。

  1. 抗炎症作用による内耳の保護…ステロイドは強力な抗炎症作用を持つため、内耳に炎症が起きている場合、その炎症を抑え組織の損傷を最小限に止めておくために必要。突発性難聴が発症する際、内耳が炎症を起こして腫れが発生していることが多く、この腫れが聴覚細胞や聴覚神経にダメージを与えて聴力の低下を引き起こしている。ステロイドによって内耳の炎症が抑えられることで、聴覚神経が回復しやすくなる。
  2. 浮腫(むくみ)の軽減による聴力改善…突発性難聴では内耳に浮腫が生じ、内耳の血流が悪くなる。ステロイドには浮腫を抑える効果があるため、内耳の腫れが軽減され血流が回復することで、聴力が改善される。内耳の血流不足が突発性難聴の発症に関与している可能性が高いため、血流の改善は治療の重要なポイントとなる。
  3. 免疫抑制による自己免疫反応の抑制…突発性難聴が自己免疫反応により発症するケースもある。自己免疫反応とは、免疫系が誤って自分の組織を攻撃してしまうこと。この場合、内耳の正常な組織が免疫系により攻撃を受けて聴力が低下するため、ステロイドの免疫抑制作用が有効とされる。
  4. 神経保護効果による聴覚神経の保護…最新の研究では、ステロイドが神経を保護する作用を持ち、聴覚神経細胞の損傷を減らす可能性が示されている。特に早期に治療を開始することで、聴覚神経細胞がより良く保護され、聴力が回復する可能性が高まると考えられている。

以上のことから、ステロイドは、突発性難聴の原因とされる複数の要因に対して直接的または間接的な効果を発揮するため、標準的な治療法として用いられています。

突発性難聴では、発症からの時間が回復の鍵とされているため、ステロイドによる早期の治療開始が推奨されています。

2.ステロイド治療の医学的ガイドライン

2.ステロイド治療の医学的ガイドライン

突発性難聴の治療において、ステロイドは国際的なガイドラインで標準治療とされており、日本耳鼻咽喉科学会や米国耳鼻咽喉科学会などが推奨しています。

ステロイド治療は、急性期の聴力回復を目指すものであり、可能な限り早期に開始することが重要です。

以下は、治療ガイドラインでの推奨内容を具体的に説明します。

2-1.投与方法と期間

一般的に推奨されているのは、経口ステロイドの短期間集中投与です。

治療開始時のステロイドの用量は、プレドニゾロンやデキサメタゾンなどが1日当たりに一定量が処方されます。

急性期には通常、1〜2週間の間に用量を徐々に減らしながら投与するパターンが多く採用されています。

ガイドラインには、用量が明確に記載されていることが多いため、個々の患者の体重や体質、聴力の回復状況などを考慮して医師が適切に調整します。

また、経口ステロイドが効かない場合や副作用のリスクが高い患者に対しては、局所ステロイド注射(鼓室内注射)が有効とされています。

この方法では、耳の鼓膜を通じて直接ステロイドを注入することで、内耳に直接作用させ、副作用を抑えつつ効果を高めることが可能です。

ガイドラインには、経口投与と局所注射の併用も選択肢として挙げられています。

2-2.効果の確認と治療終了の判断

治療の効果は、聴力検査や患者の症状の変化をもとに、数日から1週間で評価します。

ステロイド治療に効果が見られる患者は治療開始後1週間程度で聴力が回復し始めますが、効果が乏しい場合は早期に治療方法を見直すことも必要です。

2-3.副作用とリスク管理

ガイドラインでは、ステロイド治療に伴う副作用として、血糖値の上昇、体重増加、免疫力の低下、消化管出血などが挙げられています。

特に糖尿病患者や感染症リスクの高い患者には慎重な観察が求められ、治療開始前に患者の既往歴や体質を確認することが推奨されています。

副作用が現れた場合は、速やかに医師に相談し、投与量の調整や他の治療方法に切り替えます。

3.ステロイド治療の効果と期待される回復度合い

3.ステロイド治療の効果と期待される回復度合い

ステロイド薬には、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用があり、内耳の組織や神経の炎症や浮腫を減少させます。

具体的な効果としては、以下になります。

  • 内耳の血流改善
  • 内耳の浮腫軽減
  • 免疫反応の調整

治療開始から効果を感じるまでの期間は、治療開始から数日〜1週間で効果を実感し始めるケースが多いとされています。

以下は、一般的な回復のプロセスです。

  • 治療開始から数日以内…早ければ1〜3日程度で、耳鳴りの軽減や音の聞こえ方が変わったと感じることがある。しかし、この段階ではまだ聴力の大幅な改善は見られないことが多く、あくまで初期の兆候にすぎない。
  • 1週間以内…多くの患者がこの期間に少しずつ聴力の回復を実感し始める。特に、低音域の聞こえが改善し始めることが一般的。耳の詰まり感や音の歪みが減り、聴覚がより自然な状態に戻る感覚があるとされている。
  • 2〜3週間…治療効果が持続すると、この時点でかなりの聴力改善が見られるケースが増える。このタイミングでは、日常会話がスムーズにできるようになるなど、生活の質が向上することが多い。ただし、患者によっては完全に元の聴力に戻るわけではなく、一部の症状が残る場合もある。

ステロイド治療の効果は個人差が大きく、すべての人が完全に回復するわけではありません。

以下のように、回復の度合いと治療期間にはさまざまなケースがあります。

  • 完全回復の可能性…治療開始から1ヵ月以内に聴力が元に戻るケースが多く、早期治療を行った場合には完全回復の可能性が比較的高い。特に、発症から48時間以内に治療を開始した場合は、回復率は50-70%に達する。
  • 部分的な回復…完全に聴力が回復しない場合でも、ある程度の改善が見込まれる場合がある。このケースでは、特に低音域や中音域の聴力が部分的に戻り、日常生活には支障がない程度に改善することが多い。改善するかどうかの基準は、患者の年齢や発症原因、早期治療の開始などの要因によって左右される。
  • 回復が見られない場合…残念ながら、治療効果が見られない場合もある。この場合は、次のステップとして鼓室内注射や高気圧酸素療法などの追加治療が検討されるが、これらの治療も効果が限定的であるため、医師とよく相談して治療方針を決めることが必要。

4.ステロイドの副作用と注意点

4.ステロイドの副作用と注意点

ステロイドは強力な抗炎症作用を持つ一方で、様々な副作用のリスクも伴います。

特に以下のような副作用が考えられます。

  1. 胃腸障害:消化不良、胃痛、吐き気など。対策として、胃腸保護薬を併用することがある。
  2. 免疫力の低下:ステロイドが免疫抑制作用を持つため、感染症のリスクが増加する。感染予防のため、うがいや手洗いなどの日常的な衛生管理が重要。
  3. 血糖値上昇:ステロイドは血糖値を上昇させる作用があり、特に糖尿病患者は注意が必要。血糖値の管理が必要な場合があるので、糖尿病を抱える方は担当医に相談する。
  4. 不眠・精神的変動:ステロイドには睡眠障害や精神的な不安定を引き起こす可能性があるため、過剰なストレスや睡眠不足を避ける。

ステロイド治療中のアルコールやカフェインの摂取は控えた方が良いとされています。

  1. アルコール:肝臓に負担がかかり、薬の代謝に影響する可能性があるため、摂取は控える。
  2. カフェイン:カフェインは心拍数や血圧を上昇させる作用があり、不安感や不眠を悪化させるリスクがあるため、特に夜間は控える。

5.もし突発性難聴にステロイドが効かない場合はどうする?

5.もし突発性難聴にステロイドが効かない場合はどうする?

突発性難聴に対するステロイド治療が効果を示さなかった場合は、次の選択肢として以下のような治療が検討されます。

これらの治療法は、ステロイドによる効果が限定的であった場合やステロイドの副作用による影響を考慮した場合に推奨されます。

5-1.局所ステロイド注射(鼓室内注射)

経口ステロイドが効果を示さない場合には、鼓室(中耳)内にステロイドを直接注入する方法があります。

内耳近くに高濃度のステロイドを直接届けることができるため、より局所的な効果が期待され副作用が少ない点がメリットです。

デキサメタゾンやトリアムシノロンアセトニドがよく使用されます。

治療の仕方は、耳の鼓膜に小さな穴を開け、そこからステロイドを中耳に注入する方法で行います。

治療頻度は医師によって異なりますが、通常は数日に1回、数回にわたって注入が行われます。

治療中は、鼓膜の穴が自然に閉じるまで耳を乾燥させるなどのケアが必要です。

局所注射により約50-60%の症例で聴力の改善が見られるとされていますが、治療時に耳鳴りや耳の違和感が生じる場合があるため、慎重に医師の指導に従って進める必要があります。

5-2.高気圧酸素療法

高気圧酸素療法は、酸素濃度を高めた状態で体内に酸素を供給し、内耳の血流を改善する方法です。

突発性難聴の発症において、内耳の血流不足や低酸素状態が原因の一つと考えられているため、酸素供給を増やすことで内耳の環境を改善する効果が期待されています。

治療の仕方は、専用の高気圧酸素室に入って、通常1〜2時間、酸素濃度の高い環境下で療法を受けます。

治療は、1日1回、週に5〜6回の頻度で行われ、通常数週間続けられます。

高気圧酸素療法は、早期に実施されるほど効果が高く、急性期での治療成功率が上がるとされています。

突発性難聴の症状改善が見られるケースも多いですが、酸素室の圧力変動による耳の違和感やまれに閉所恐怖症などの副反応が発生する可能性があります。

治療が可能な医療機関が限られている点も考慮が必要です。

5-3.血流改善薬や循環改善薬の使用

内耳の血流を改善するために、血管拡張薬や抗血小板薬、プロスタグランジン製剤などの血流改善薬を使用することもあります。

内耳の血流量を増加させ、酸素や栄養の供給を促進することで、内耳の機能回復を助けることが期待されています。

これらの薬は、経口薬として服用するほか、点滴での投与が行われる場合もあります。

治療は1~2週間続けられ、状況に応じて医師が調整します。

血流改善薬は、内耳の循環を良くすることによって突発性難聴の改善が期待でき、特に軽度〜中等度の症例で一定の効果が認められています。

ただし、血圧低下や出血傾向の副作用のリスクがあるため、事前に既往症や服用中の薬を医師に確認することが重要です。

5-4.ビタミン・抗酸化物質療法

突発性難聴が酸化ストレスや細胞損傷と関係していることから、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、ベータカロテンなどのサプリメントの補充が推奨されることがあります。

これにより、内耳の酸化ストレスを軽減し、細胞の健康を保つサポートを行います。

ビタミンや抗酸化サプリメントを毎日一定量摂取することで、細胞の損傷を抑える効果が期待されます。

ビタミン剤は処方薬のほか、一般的な市販サプリメントも利用可能です。

抗酸化物質の補給は内耳の細胞を保護し、酸化ストレスの軽減に役立つことが期待されますが、単体では治療効果が限定的であることもあり、他の治療と併用されることが多いです。

また、大量摂取による過剰症が起きる可能性もあるため、医師の指示に従って適切に摂取することが大切です。

突発性難聴の治療は、早期の治療が効果を左右することが多いため、治療効果が見られない場合には、医師と相談の上で適切な治療方法に切り替えることが重要です

また当院では鍼灸院として突発性難聴の鍼治療を行っています。

突発性難聴の治療には、ステロイドや循環改善のための薬以外にも鍼治療という選択肢もあります。

病院との治療と並行して行うことで相乗効果があります。

6.最新の研究結果と今後の治療の可能性

6.最新の研究結果と今後の治療の可能性

突発性難聴のステロイド治療の効果は、発症後の早期治療で大幅に高まることが近年の研究で明らかにされています。

2023年に発表された研究では、治療開始が発症から72時間以内である場合、回復率が40%以上向上するとの結果が示されています。

また、将来的には分子レベルでの内耳障害に対する治療法が開発されることが期待されています。

例えば、再生医療や遺伝子治療があります。

現段階では研究段階にあるため、臨床での実用化には至っていませんが、突発性難聴の中でも内耳の有毛細胞や神経細胞が損傷している場合は、幹細胞を内耳に移植して新しい有毛細胞や神経細胞の再生を試みる方法が検討されています。

また、遺伝子治療として、内耳の細胞をターゲットにした特定の遺伝子導入が進行しています。

これらの治療は、臨床試験が進むことで、今後新しい治療法として加わる可能性があります。

7.まとめ

いかがでしたか?

突発性難聴は、原因不明で突然発症する疾患ですが、早期にステロイド治療を行うことで回復の可能性が高まります。

治療は短期間ですむことが多いものの一定の副作用があるため、医師の指示に従った慎重な管理が必要です。

治療の効果が見られない場合は、高気圧酸素療法や血流改善薬などの追加治療が検討されることもあります。

日常生活ではアルコールやカフェインの摂取を控え、健康的な生活習慣を維持することで、突発性難聴の改善と再発予防に努めることが大切です。

参考文献及び論文

1.日本耳鼻咽喉科学会編「突発性難聴治療ガイドライン」

日本耳鼻咽喉科学会が策定する突発性難聴のガイドライン。ステロイド治療を含む標準治療に関する詳細なプロトコルが記載されている。治療の開始時期、投与量、投与期間などについての推奨事項が示されている。

2.Stachler RJ, Chandrasekhar SS, Archer SM, et al. “Clinical practice guideline: sudden hearing loss.” Otolaryngol Head Neck Surg. 2012;146(3 Suppl)

米国耳鼻咽喉科学会による突発性難聴の診療ガイドライン。突発性難聴に対するステロイドの役割や有効性が詳細に解説されている。経口ステロイドと注射の比較、副作用リスクの管理方法も含まれている。

3.Wilson WR, Byl FM, Laird N. “The efficacy of steroids in the treatment of idiopathic sudden hearing loss. A double-blind clinical study.” Arch Otolaryngol. 1980;106(12):772-776.

ステロイドの突発性難聴に対する有効性を示す初期の研究で、特に急性期におけるステロイド治療の効果について評価した二重盲検試験。内耳におけるステロイドの抗炎症効果と回復率の改善に関するデータが示されている。

4.Wei BP, Stathopoulos D, O’Leary S, Psaltis AJ. “Steroids for idiopathic sudden sensorineural hearing loss.” Cochrane Database of Systematic Reviews. 2013;(7)

ステロイド治療の効果に関するシステマティックレビューで、経口ステロイドと局所ステロイド投与法(鼓膜穿刺法や鼓室内注射)の効果比較、またその治療時期と有効性についてまとめた研究。副作用についてのリスク評価も行われている。

5.Moskowitz D, Lee KJ, Smith HW. “Steroid use in idiopathic sudden sensorineural hearing loss.” Laryngoscope. 1984;94(5 Pt 1):664-666.

突発性難聴におけるステロイドの使用とその効果に関する初期の調査。特にステロイドが難聴の症状改善に寄与する可能性や聴力回復率の向上についてまとめられた論文。

6.Nakagawa T, Yamane H, Shitara T, et al. “Prognostic factors for sudden sensorineural hearing loss: retrospective study of 251 patients.” Auris Nasus Larynx. 2003;30(1):39-43.

突発性難聴の予後に関する因子について調査した研究で、治療のタイミングやステロイド治療の有効性についての知見が示されている。突発性難聴患者の聴力回復と治療効果の関連性についての情報を提供している。

7.Bennett ML, Kertesz TR, Wilder MN, et al. “Hyperbaric oxygen therapy for idiopathic sudden sensorineural hearing loss: a meta-analysis.” Laryngoscope. 2005;115(9):1684-1690.

高気圧酸素療法が突発性難聴に与える影響を評価したメタアナリシス。ステロイドと併用した場合の効果や代替療法としての位置づけについても考察されている。

8.Haynes DS, O’Malley M, Cohen S, et al. “Intratympanic dexamethasone for sudden sensorineural hearing loss after failure of systemic therapy.” Laryngoscope. 2007;117(1):3-15.

全身投与によるステロイド治療が無効だった場合に使用される鼓室内デキサメタゾン注射の効果に関する研究。全身ステロイド治療の効果が不十分だった患者への次の選択肢として、局所注射が有効であることを示唆している。

運営者情報

運営者情報
会社名 株式会社HARI51「なかいし鍼灸院」
代表者 代表取締役・院長 中石真人
経歴 高陽東高校→明治鍼灸大学→朝日医療専門学校

トリガーポイント・ファシアリリース専門鍼灸院として、症状の改善はもちろん、自分の健康を自分の力でコントロールできる人を一人でも多く増やすことを理念に掲げ、日々施術にあたっている。

資格 鍼灸師・柔道整復師
創業 平成24年9月3日
所在地 広島市中区上八丁堀4-28松田ハイツ702
電話 050-1255-9166

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