ファシアとは、筋肉や臓器などを包み、支え、組織同士をつなぐ結合組織を指す言葉です。
広い意味では、筋膜だけでなく、腱・靭帯・神経や血管の周囲にある結合組織なども含みます。
テレビやインターネットでファシアという言葉を知り、「筋膜と何が違うのか」「自分の首こりや腰痛にも関係するのか」と気になった方もいるでしょう。
痛みとの関係を考えるには、言葉の意味に加えて、どの組織に負担がかかり、動いたときに周囲の組織とどう関わっているのかを知ることが大切です。
この記事では、ファシアと筋膜の違い、神経や血管との関係、痛みに関する研究を整理します。
そのうえで、なかいし鍼灸院が行う動作評価・超音波エコー観察と、具体的な組織を対象とした鍼治療について説明します。
1.ファシアとは?筋膜との違いを解説
1-1.全身の組織を包み 支える結合組織のネットワーク
結合組織とは、体のさまざまな組織をつなぎ、支える組織です。
ファシアを理解するときは、体の表面を覆う1枚の膜ではなく、筋肉の内部や組織同士の間にも広がる立体的なつながりをイメージすると分かりやすいでしょう。
国際的な研究団体であるFascia Research Societyは、個々の膜状の結合組織を表す「a fascia」と、全身に連続する結合組織系を表す「fascial system」を区別しています。
前者は解剖学的な構造に着目した言葉で、後者は組織同士の連続性や働きまで含めた広い概念です。
この記事では、広い概念を説明するときに「ファシア」という言葉を使い、個々の構造については筋膜・腱・靭帯などの組織名で説明します。
1-2.筋膜は広い意味でのファシアの一部
筋膜は、筋肉を包み、筋肉同士を区切りながら連結する結合組織です。
筋肉の外側だけでなく、内部の細かな構造を支える結合組織もあります。
一方、広い意味のファシアシステムには、筋膜に加えて腱・靭帯・関節包・神経周囲の結合組織・脂肪組織なども含まれます。
「筋膜はファシアの一部」と捉えると、両者の関係を整理できます。
日本整形内科学研究会も、ファシアを全身の組織を覆い、接続し、支える立体的な組織として説明しています。
日本語ではファシアが「筋膜」と訳されることがありますが、広い意味で使われている場合は、筋肉を包む膜だけを指しているわけではありません。
2.ファシアがある場所と筋肉、神経、血管との関係
2-1.筋肉を包む筋膜と筋肉同士をつなぐ組織
筋肉は、単独で宙に浮いているわけではありません。
表面や内部の結合組織に支えられ、隣り合う筋肉や腱などとつながっています。
筋肉が縮んだり伸びたりすると、周囲の組織との位置関係も変化します。
このとき、隣り合う層が互いにずれながら動くことを「滑走」といいます。
例えば腰背部の筋膜には、比較的密な結合組織の層と、その間で動きを許容する疎らな結合組織の層があります。
体を動かす際には、こうした層同士の動きも生じています。
2-2.神経や血管の周囲にもある結合組織
神経や血管の周囲にも、構造を保ち、周囲の組織とつなぐ結合組織があります。
広い意味のファシアシステムには、神経を包む神経上膜や、神経・血管を取り巻く結合組織なども含まれます。
末梢神経では、神経全体を包む神経上膜や、内部の神経線維の束を囲む神経周膜など、異なる構造が重なっています。
血管にも外膜や周囲の結合組織があり、筋肉や腱などとの位置関係を保っています。
関節を動かすときは、筋肉や腱に加えて神経も周囲との位置関係を変えます。
そのため、しびれを評価するときには、神経と、その周囲を取り巻く組織の両方に目を向けます。
2-3.腱、靭帯、関節周囲、内臓を支える結合組織
腱は筋肉の力を骨などへ伝え、靭帯は骨同士をつないで関節を支持します。
関節を包む関節包や、内臓を支える結合組織も、広い意味のファシアシステムに含まれます。
同じ結合組織でも、場所によって形や役割は異なります。
力を伝える腱と、神経の周囲にある組織では、評価するときに見る点も変わります。
痛みを考える際にも、「ファシアに問題がある」という総称だけで終わらせず、どの組織に、どのような負担や動きの変化があるのかを具体的に捉えることが重要です。
3.ファシアと痛みの関係
3-1.筋膜や周囲組織の緊張と痛み
筋膜は、体を包むだけの受動的な膜ではありません。
組織学的研究では筋膜内の神経構造が確認されており、感覚や痛みとの関係が研究されています。
組織にかかる負荷、炎症、損傷後の変化などは、痛みを考えるうえで重要な要素です。
筋肉の緊張が続いているときには、その周囲の筋膜や結合組織にも目を向けます。
画像検査で大きな異常を指摘されなくても、動作や姿勢に伴う痛みが残るときは、筋・筋膜などの軟部組織を含めて評価する意義があります。
骨・関節・椎間板・神経の状態と、痛みが出る動きを照らし合わせ、症状に関与する要因を整理します。
3-2.組織間の滑走性と動きの制限
滑走性とは、隣り合う組織が互いに滑らかに動く性質です。
けがや手術後の瘢痕、線維化などは、組織間の動きに影響する要因になります。
慢性腰痛のある人を対象とした研究では、腰背部の筋膜の層同士のずれが、腰痛のない人より小さいことが報告されています。
この研究は筋膜の動きと腰痛との関連を示すもので、動きの低下が先に起きたのか、痛みによる動作の変化が先なのかまで決めるものではありません。
当院では、エコーで筋膜の重なりを観察し、関節を動かしたときに組織が滑らかに動くか、引っ掛かりがないかを確認しています。
臨床で「重積」「癒着」と表現する際は、層が重なって見える状態や、周囲との動きが制限される所見を、普段の症状と照らし合わせて評価しています。
当院が重視するのは、画像に見える形だけでなく、動いたときの組織の状態と症状との対応です。
3-3.同じ姿勢を続ける生活と痛みの広がり
当院の臨床経験では、長時間同じ姿勢を続ける方に、組織の癒着を疑う滑走の制限や、動きの乏しさが強く見られる傾向があります。
デスクワークなどで体を動かす機会が偏っている場合は、仕事中の姿勢や休憩の取り方まで確認します。
また、来院される方の中には、短期間で痛みを感じる範囲が広がった方もいます。
このような場合は、最初に痛んだ場所だけでなく、周囲の筋肉や関連痛、神経の症状、痛みに対する敏感さの変化まで評価の範囲を広げます。
生活上は、同じ姿勢を固定し続けず、痛みを強めない範囲で姿勢や動きを変えることから始めます。
動かすと強く痛む場合は、無理なストレッチや強いマッサージを続けず、症状の評価を受けましょう。
筋・筋膜由来の痛みを考える際には、筋膜性疼痛症候群について理解することも役立ちます。
ファシアが組織を捉える概念であるのに対し、筋膜性疼痛症候群は筋・筋膜に関係する痛みの病態を表す言葉です。
【関連記事:筋膜性疼痛症候群(MPS)、トリガーポイント療法とは】
4.首こり、肩こり、腰痛、しびれとファシアの関係
4-1.首こりや肩こりでは筋肉と周囲組織を確認する
「首のファシア」は、首にだけ存在する特別な1枚の膜を指す言葉ではありません。
首にも筋肉を包む筋膜があり、神経や血管の周囲にも結合組織が存在します。
首こりや肩こりを評価するとき、当院では、どこが硬いかに加えて、どの姿勢や動きで普段の症状が出るかを確認します。
例えば、上を向くと痛むのか、振り向くと突っ張るのか、座っている時間が長くなると重くなるのかによって、詳しく確認する部位が変わります。
そのうえで、首や肩の筋肉、筋膜、周囲組織の状態を調べます。
病名や痛む場所だけで施術部位を固定せず、症状が再現される動作を手掛かりに対象を絞ります。
【関連記事:首こり(頚性神経筋症候群)】
4-2.腰痛では痛む場所と動作の両方を見る
腰痛では、前かがみで痛む、反らすと痛む、立ち上がる瞬間に痛むなど、症状が出る場面を具体的に確認します。
同じ「腰が痛い」という訴えでも、負担のかかり方や、詳しく評価する筋肉・筋膜は異なります。
当院では、痛む場所と症状に関与する部位が離れている関連痛も考えます。
関連痛とは、ある部位からの痛みを、別の場所に感じる現象です。
そのため、腰の痛い場所だけを押したり、その場所だけに鍼をしたりする前に、動作と触診によって症状とのつながりを調べます。
周囲や離れた部位を確認したときに普段の痛みが再現されれば、施術対象を考える重要な手掛かりになります。
4-3.しびれでは神経と周囲組織の関係を評価する
手根管症候群は、手首にある手根管という通り道で正中神経が圧迫され、手指のしびれや痛みなどを生じる病気です。
神経と、同じ通り道にある腱やその周囲組織との関係が、症状を考えるうえで重要になります。
当院では、手根管症候群の施術で、正中神経の周囲膜などの組織を対象にします。
筋肉への刺鍼だけでなく、神経周囲の組織を評価し、施術対象を考える具体例です。
このときの対象は、神経の外側や周囲にある組織です。
神経内部へ鍼を刺すことを目的にはしていません。
しびれに加えて、物をつまみにくい、手の力が落ちてきた、親指の付け根がやせてきた場合は、整形外科で神経障害の程度を確認することが先です。
診察や必要に応じた神経伝導検査などの結果を踏まえ、治療方針を判断します。
5.ファシアの状態を調べる方法
5-1.痛みが出る動作や姿勢から対象組織を考える
当院の評価は、日常生活での困りごとを具体的に聞くことから始まります。
仕事中の姿勢、痛みが出る動作、症状が強まる時間や場面を確認し、実際の動きと照らし合わせます。
触診では、押した場所が痛いかだけでなく、患者さんが普段感じている痛みやしびれが再現されるかを重視します。
「いつもの痛みが出る」「そこを触られると、気になっていた場所に響く」という反応は、対象部位を考える材料です。
単に押すと痛い圧痛点と、普段の症状を再現するトリガーポイント候補は区別します。
硬さや圧痛だけで判断せず、動作・症状の分布・触診の反応を組み合わせます。
5-2.超音波エコーで筋膜や周囲組織を観察する
超音波エコーでは、筋肉・筋膜・腱・靭帯・神経・血管などの位置関係を観察します。
当院では初診時の説明や軟部組織の評価に用い、患者さんと画像を共有しています。
具体的な組織を示すことで、「痛い場所の下に何があるのか」「今回はどの組織に着目しているのか」を伝えやすくなります。
画像を読む際は、筋膜の重なりや組織の形を、問診や動作評価と合わせて捉えます。
エコーは構造や動きを確認する手段であり、画像に見える特徴を、そのまま痛みの原因と決めるものではありません。
5-3.関節を動かしながら滑走や引っ掛かりを見る
当院が重視するのは、静止した画像に加えて、関節を動かしながら組織の動きを見ることです。
筋膜や腱などが、周囲の組織に対して滑らかに動くかを確認します。
動きが乏しい部分や引っ掛かりがあれば、その動作で普段の症状が出るかを照らし合わせます。
例えば、関節を曲げ伸ばししたときに症状が出るなら、その過程で対象組織と周囲の位置関係がどう変わるかを観察します。
「動かすと痛い」という訴えを、動作と組織の両面から具体的に調べるためです。
超音波で筋膜の滑走を評価する方法は研究でも検討されています。
評価対象や測定方法は研究ごとに異なるため、臨床では画像の動きと患者さんの症状を対応させて読み取ります。
6.なかいし鍼灸院が考えるファシアへの鍼治療
6-1.総称ではなく具体的な組織を対象にする
なかいし鍼灸院では、患者さんへの説明で「ファシア」という総称を積極的には使っていません。
筋膜・腱・靭帯・筋肉同士の間にある組織・神経周囲の膜など、具体的な組織名で説明しています。
その方が、患者さん自身が「どこを調べ、どこを施術するのか」を理解しやすいと考えているためです。
患者さんがファシアという言葉を使って相談されたときは、その言葉に合わせて説明します。
施術対象は症状によって変わります。
筋膜間の動きに着目する場合もあれば、腱・靭帯や神経周囲の組織を詳しく調べる場合もあります。
病名ごとに同じ部位へ施術するのではなく、動作と症状の再現、触診、エコー所見から対象を決めます。
6-2.筋肉から神経周囲の組織まで症状に応じてアプローチする
当院のトリガーポイント鍼治療では、普段の症状を再現する部位を重要な手掛かりに、筋肉や筋膜へ刺鍼します。
痛む場所と離れた筋肉が関与していると考えられる場合は、その部位も確認します。
また、筋肉同士の間にある結合組織や、神経周囲の組織にも目を向けます。
手根管症候群で正中神経周囲膜を対象とするのも、この考え方に基づいています。
施術では、対象組織の緊張や滑走、症状の変化を確認します。
どの組織を対象にするのかを説明し、施術前後で動作や普段の症状がどう変わるかを患者さんと共有します。
6-3.エコーで施術対象と周囲構造を確認する
鍼を行う際は、対象組織と、周囲の神経・血管などの位置関係を確認します。
必要な部位ではエコーガイド下で、画像を見ながら鍼の進む方向や鍼先を確認して施術します。
エコーを使う目的は、具体的な構造を捉えたうえで施術することです。
画像で確認した組織と、症状が再現される動作や触診所見を結び付けて判断します。
広島市中区のなかいし鍼灸院では、病院で検査や治療を受けても残る痛み・しびれについて、筋肉や筋膜、神経周囲などの軟部組織からも評価しています。
何に対して施術するのかを説明し、動作や症状の変化を確認しながら進めます。
7.ファシアについてよくある質問
7-1.ファシアと筋膜の違い
広い意味のファシアには筋膜が含まれます。
筋膜は主に筋肉を包み、区切り、連結する組織を指し、ファシアシステムは腱や靭帯なども含めた広い概念です。
「ファシア」と説明されているときは、具体的にどの組織を指しているのかも確認すると理解しやすくなります。
7-2.ファシアが存在する場所
筋肉の周囲や内部、神経・血管の周囲、関節や内臓を支える部分など、全身に関係する概念です。
体の表面に1枚の膜があるという意味ではなく、異なる構造や役割を持つ結合組織がつながっています。
7-3.エコーで分かること
筋肉や筋膜、腱、神経などの構造や位置関係と、動作に伴う組織の動きを観察できます。
当院では、滑走の制限や引っ掛かりを、患者さんが普段感じている症状と照らし合わせます。
痛みの原因を判断する際は、画像に加えて問診・動作評価・触診を組み合わせます。
7-4.鍼治療の対象になる痛み
当院では、筋肉・筋膜や神経周囲などの軟部組織が関与すると考えられる痛み・しびれを施術対象として評価しています。
「ファシアが原因」という言葉だけで決めず、症状の経過と、動作や触診での再現を確認します。
しびれや筋力低下が続く場合は、先に整形外科などで神経障害の有無や程度を確認してください。
そのうえで症状が残っている方は、検査結果やこれまでの治療内容も含めてご相談ください。
8.まとめ 痛みを筋肉と周囲の組織から考える
ファシアは、筋膜だけでなく、腱・靭帯・神経周囲などの結合組織を含む広い概念です。
痛みとの関係を考えるときは、その言葉だけで原因を説明するのではなく、具体的な組織と動きに目を向けることが大切です。
病院で検査や治療を受けても症状が残っている場合は、どの姿勢や動作で症状が出るかを整理してみてください。
その情報は、筋肉・筋膜や周囲組織を評価するときの重要な手掛かりになります。
なかいし鍼灸院では、普段の症状が再現される動作と触診、エコーによる構造・動きの観察を組み合わせ、具体的な施術対象を考えます。
LINEでのご相談
病院で検査や治療を受けても痛み・しびれが続いている方や、ご自身の症状が筋肉・筋膜・神経周囲の組織と関係しているのか判断に迷う方は、LINEからご相談ください。
症状が出る場所、痛みやしびれが強くなる動作、これまでに受けた検査や治療についてお知らせください。
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参考文献
1.Fascia Research Society.Fascia Nomenclature.
ファシアとファシアシステムの定義、構成要素。
2.一般社団法人 日本整形内科学研究会.ファシア(Fascia).
日本語での定義と患者向けの説明。
3.Fede C, et al.Evidence of a new hidden neural network into deep fasciae.
深筋膜に存在する神経構造の研究。
4.Langevin HM, et al.Reduced thoracolumbar fascia shear strain in human chronic low back pain.BMC Musculoskeletal Disorders.2011;12:203.
慢性腰痛と胸腰筋膜の層間の動きに関する研究。
5.Diagnostic ultrasound assessment of deep fascia sliding mobility in vivo: A scoping review – Part 1: Thoracolumbar and abdominal fasciae.
超音波による筋膜滑走性評価の研究整理。
6.American Academy of Orthopaedic Surgeons.Carpal Tunnel Syndrome.
手根管症候群の仕組み、症状、検査と治療。
7.American Academy of Orthopaedic Surgeons.Electrodiagnostic Testing.
神経伝導検査・筋電図検査の役割。
運営者情報
| 会社名 | 株式会社HARI51「なかいし鍼灸院」 |
| 代表者 | 代表取締役・院長 中石真人 |
| 経歴 | 高陽東高校→明治鍼灸大学→朝日医療専門学校
トリガーポイント・ファシアリリース専門鍼灸院として、症状の改善はもちろん、自分の健康を自分の力でコントロールできる人を一人でも多く増やすことを理念に掲げ、日々施術にあたっている。 |
| 資格 | 鍼灸師・柔道整復師 |
| 創業 | 平成24年9月3日 |
| 所在地 | 広島市中区上八丁堀4-28松田ハイツ702 |
| 電話 | 050-1255-9166 |






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